こんにちは!今回は「カスター・チャネルウイング」について解説します。「カスター・チャネルウイング」はウィラード・カスターが発明した、半円形に折れ曲がった翼です。短距離離着陸性能に優れていましたが、どのような仕組みだったのでしょうか。
チャネルウイングの発明
1925年、当時26歳の整備士ウィラード・カスターは屋外でトラクターのエンジンを整備中、突然激しい雷雨に見舞われます。彼は近くの納屋に逃げ込みましたが、そこで強風により納屋の屋根が浮き上がるのを目撃しました。屋根の上は空気が速く流れて圧力が低くなる一方、納屋内部の空気はほとんど静止している為に圧力は高いままなので、屋根は圧力の低い上部へと持ち上げられたのです。これは空気の流れが速い上面の気圧が空気の流れが遅い下面の気圧より低くなることで揚力を得る飛行機の翼と同じ原理です。
ウィラード・カスターはこのことから飛行機自体の対気速度ではなく、主翼上面の空気の流れの速さが揚力にとって重要であることに着目し、「チャンネル・ウイング」を発明し、1929年に特許を取得しました。
チャネルウイングの仕組み
「チャンネル・ウイング」はエンジン・プロペラの搭載部分が半円形に折れ曲がった翼で、円の中心にエンジンを設置し、主翼後縁にプロペラ面を一致させる形で推進式プロペラを装備しました。プロペラが回転すると主翼の半円形に折れ曲がった部分の内側から空気を吸い込みます。これによって半円形に折れ曲がった翼の内側を流れる空気が高速・低圧になることで、飛行機が低速の状態であっても飛行が可能な大きな揚力を発生させることができるという仕組みでした。
最初の実験機CCW-1
1939年、ウィラード・カスターはナショナル・エアクラフト・コーポレーションを設立しました。
資金提供を受け、手作業で制作された最初の試作機CCW-1は1942年11月12日に初飛行しました。この日の初飛行は意図したものではなく、地上滑走のデモンストレーション中に離陸してしまったのでした。1人乗りで、75馬力のライカミングO-145を2基搭載しています。優れた短距離離着陸性能を発揮し、離陸滑走距離は61mでした。100時間以上のテスト飛行の後、1943年11月に退役しました。その後、分解して保管された後、1961年にスミソニアン博物館に寄贈されています。
垂直上昇にも成功したCCW-2
1948年7月3日にはCCW-2が初飛行しました。単発機のテイラークラフトBC-12の胴体を使用して制作されたチャネルウイングの双発機でした。この機体も短距離離着陸性能が高く、離陸滑走距離は20mでした。1951年には繋がれた状態でその場での垂直上昇に成功しています。1952年にはNACA(NASAの前身)で風洞試験が行われました。1954年の退役後は売却されましたが、その後については不明です。
量産を見越したCCW-5
ウィラード・カスターは1951年、カスター・チャンネル・ウイング社を設立します。
実験機のCCW-1とCCW-2に続いて、量産・販売を見据えたCCW-5が開発されました。CCW-3、CCW-4は欠番となっています。
CCW-5は量産に至らなかった推進式プロペラの双発輸送機、バウマン・ブリガディアをベースに、主翼をチャンネル・ウイングとしたものでした。ベース機と同様、パイロット1名と乗客4名を乗せることができます。チャネルウイングの形を活かし、主脚は主翼の一番地面に近い部分に取り付けられ、長さを短くしています。離陸滑走距離は27mでした。
1953年7月13日、CCW-5の1号機が初飛行しました。FAA型式認証取得に向けての飛行を行った他、アメリカ各地やカナダ・メキシコで軍向け、民間向けの数多くのデモンストレーションを行いました。1954年8月24日にはオックスナードでのデモンストレーションにて、滑走路上を18km/hの低速で飛行しました。
1964年6月19日には2号機が初飛行しました。エンジンは1号機が225馬力のコンチネンタルO-470を搭載していたのに対し、2号機は260馬力のコンチネンタルIO-470Pを搭載していました。
1970年代まで試験飛行が続けられましたが、資金不足で計画は頓挫しました。CCW-5の1号機は解体されましたが、2号機は保管された後、1988年にミッドアトランティック航空博物館に売却されました。
チャネルウイング機の保存
前述の通り、2機が博物館で保存されています。
CCW-1 スミソニアン博物館のポール・E・ガーバー保存施設(メリーランド州)
CCW-5 2号機 ミッドアトランティック航空博物館(ペンシルベニア州)
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は「カスター・チャネルウイング」について解説しました。
ウィラード・カスターは気圧の差により納屋の屋根が浮き上がる現象に遭遇したのをきっかけに、「チャネルウイング」を発明しました。主翼の半円形に折り曲がった部分では、主翼上部の空気の流れがプロペラによって速くなります。これにより、飛行機が低速の状態でも大きな揚力を発生させ、高い短距離離着陸性能を発揮しました。量産、販売を見据え開発が進められましたが、残念ながら実現しませんでした。
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参考文献
続世界の珍飛行機図鑑 西村直紀 グリーンアロー出版社
The Official Custer Channel Wing Website
Wikipedia英語版