スペースシャトルをおんぶして運んだジャンボジェット「シャトル輸送機」

航空機
NASA/Jim Grossmann, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Shuttle_Carrier_Aircraft_transporting_Discovery_departs_Kennedy_Space_Center.jpg

こんにちは!今回は「シャトル輸送機」について解説します。

ジャンボジェットの背中にスペースシャトル

2011年に運用が終了したNASAの宇宙船スペースシャトル。その運用に欠かせない役割を果たしていたのがボーイング747(ジャンボジェット)を改造したシャトル輸送機です。一昔前までの飛行機図鑑ではスペースシャトルを背負って飛ぶボーイング747の写真がよく掲載されていたので、その姿を見たことがある方も多いでしょう。スペースシャトルはロケットエンジンで垂直に発射され宇宙に向かい、帰還の際には滑空して滑走路に降りてきます。しかし、自力で滑走路から離陸し飛行して移動することはできません。その為着陸した地点からの輸送や整備工場への移動の為には他の力を借り、飛行機に乗せて運ぶ必要がありました。

シャトル輸送機にジャンボが選ばれた理由

Turbo-Three Corporation/NASA Langely, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Virtus_dropping_orbiter.png
コンロイ・ヴィルトゥスのコンセプトアート その翼幅は140mとなり、実現していれば世界最大でした。

当初、スペースシャトルを双胴の中間・主翼下に吊るして運べる巨大な双胴機の開発が計画され、コンロイ・ヴィルトゥスと双胴版ロッキードC-5が検討されましたが、開発コストとその機体の巨大さから断念、既存の機体の胴体上部にスペースシャトルを積載する方法が採られることになりました。。

シャトル輸送機への改造ベースの候補としてあげられたのは、米空軍の大型輸送機「ロッキードC-5ギャラクシー」と大型旅客機「ボーイング747」でした。

風洞試験の結果、T字尾翼のC-5では水平尾翼にスペースシャトルの後流がかかってしまう為、尾翼の大改造が必要になります。そのことから、小規模な改造で転用できる747がベースに決定しました。

空軍から貸与される形となるC-5と違い、747ならNASA自身が保有可能というメリットもありました。

シャトル輸送機への改造

シャトル輸送機への改造に当たり機体構造の強化が実施され、スペースシャトルを支える前方1か所、後方2か所の支柱が設置されました。支柱はスペースシャトルの打ち上げ時の際に外部燃料タンクを取り付ける場所に固定します。支柱には「オービターをここに取り付ける 黒い面を下にして」(オービターとはスペースシャトル本体部分のこと)というユーモアを交えた注意書きが書かれました。

風洞試験の結果を基にシャトルの後流を避ける為、水平尾翼両端に垂直安定板が増設され安定性を確保しました。エンジン換装と電子機器アップグレードが行われ、スペースシャトルの状態を監視できる計器も追加されました。機内は1番ドアより前方に同乗者用のシートが残されましたが、後ろの内装は全撤去してあります。当初は747試験飛行時に用いられたものと同様の脱出システムを搭載していましたが、エンタープライズ号の試験飛行終了後は撤去されました。

スペースシャトル搭載時は重量と空気抵抗により性能が大幅に低下し、航続距離は5500海里(約10000km)から1000海里(約1900km)に縮みました。また、燃費は通常時の約2/3となる0.23マイル/ガロン(0.1km/リットル)に、巡航速度はマッハ0.84からマッハ0.6となります。

乗務員は普通の747クラシック同様機長、副操縦士、航空機関士の3名ですが、シャトル輸送時は航空機関士が2名乗務する4名乗務で運航されました。シャトルの積載にはMate-Demate Devicesと呼ばれる専用のガントリークレーンが用いられました。シャトルを積載せず飛行する際には重心を調整しなければならないので、バラストを積んでいました。

シャトル輸送機1号機

1974年、NASAは当時747の輸送力を持て余していたアメリカン航空から747-100の中古1機(N9668)を1600万ドルで購入、N905NAとして登録します。

購入当初はNASAドライデン飛行センターで大型機の後方乱気流の研究に使用された他、F-104との編隊飛行でスペースシャトルの分離シミュレーションも行われました。その後、1976年にボーイング社で改造を受けシャトル輸送機となりました。

長らくアメリカン航空の塗装(アメリカン航空の会社名と尾翼ロゴは消され、尾翼にNASAと表記)のまま運用されていましたが、1983年にNASA塗装に塗り替えられています。

シャトル輸送機とエンタープライズ号のテスト飛行

NASA, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Enterprise_Separates_from_747_SCA_for_First_Tailcone_off_Free_Flight.jpg
エンタープライズ号とシャトル輸送機が空中分離した瞬間を捉えた一枚 エンタープライズ号にテールコーン(他の写真でシャトルの後部につけられているカバー)が取り付けられていません。

1977年、シャトル輸送機はエドワーズ空軍基地隣接のNASAドライデン飛行センターでスペースシャトルを搭載して各種試験を行いました。

この試験で搭載されたスペースシャトルは大気圏内での試験用機体である「エンタープライズ号」です。当初は「コンスティテューション号」と命名される予定でした。しかし、スタートレックのファンから作中の宇宙船エンタープライズ号の名前を付けて欲しいと多数の手紙が寄せられたことから「エンタープライズ号」と命名されました。

この試験はApproach and Landing test(進入・着陸試験)と呼ばれ、番号が振られています。

1977年2月15日 3回の滑走テストALT-1~3が同日中に実施されました。スペースシャトル内は無人です。

1977年2月18日 シャトル輸送機がスペースシャトルを搭載し初飛行しました。以降3月までに5回(初飛行含む)の搭載飛行テストALT-4~8を実施、この試験でもスペースシャトル内は無人です。

1977年6月18日 乗員を乗せたスペースシャトルを搭載しての初の試験飛行が行われ、7月までに3回(初飛行含む)有人での搭載飛行テストALT-9~11が実施されました。

1977年8月12日 自由飛行テストが行われました。シャトル輸送機は乗員を乗せたスペースシャトルを搭載し上昇、高度6950mで空中分離を行いスペースシャトルは乗員の操縦で滑空飛行をしてエドワーズ空軍基地に着陸するという内容です。10月までに5回(初飛行含む)の自由飛行テストALT12~16が実施され、ALT12~14の3回はテールコーン(後部の空気の流れを整える部品)付き、ALT15,16の2回はテールコーンなしで行われています。自由飛行テストの際は前方の支柱に通常より長いものを用い、シャトルに迎え角を付けていました。

自由飛行テストはスペースシャトルの操縦システムのチェックと宇宙飛行士の操縦訓練の為に実施されたもので、以降は空中分離は行っていません。

その後、スペースシャトルの運用で必要になるフェリーフライトの確認もエンタープライズ号を搭載し実施されました。

シャトル輸送機の輸送任務

シャトル輸送機はテキサス州ヒューストン・ジョンソン宇宙センターに拠点を置きました。そして、スペースシャトルが着陸するエドワーズ空軍基地からケネディ宇宙センターへの輸送、スペースシャトルの納入と整備の為のケネディ宇宙センターとロックウェル社工場間の輸送を担いました。

元日本航空のシャトル輸送機2号機

1988年、NASAは日本航空の747SR-100初号機(JA8117)を購入、N911NAとして登録されました。1990年に改造され、1991年よりシャトル輸送機2号機として運用されました。JALのジャンボが輸送機になったのです。本機の初仕事は新造されたエンデバー号を工場からケネディ宇宙センターへ輸送することでした。2機のシャトル輸送機の見分け方はアッパーデッキ(2階)の窓の数でした。N905NAは2個、N911NAは5個となっています。

NASA/Tony Landis, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:ShuttleCarrierAircraftFleetNoseToNose.jpg
左がN911NA、右がN905NAです

747SR-100は日本の国際線専用に開発された機体です。こちらで解説しています。

スペースシャトル引退後、シャトル輸送機最後のミッション

2011年のスペースシャトル退役に伴い、シャトル輸送機も退役することになりました。シャトル輸送機の最後の任務はスペースシャトルを博物館に運ぶことでした。輸送の道中、都市上空で低空飛行し、人々にスペースシャトルの勇姿を見せました。

2012年4月17日 ディスカバリー号をスミソニアン博物館別館へ輸送、ワシントンDCで低空飛行を実施

2012年4月27日 エンタープライズ号を空母イントレピッドへ輸送、ニューヨークで低空飛行を実施

2012年9月19日~21日 エンデバー号をカリフォルニア科学センターへ輸送、途中エリントン空港、エドワーズ空軍基地で給油し、スペースシャトルを支えたNASAの各施設上空を通過しながら大陸横断、サンフランシスコ、ロサンゼルスで低空飛行を実施

シャトル輸送機の博物館展示

退役後は2機とも保存展示されています。

N905NA 2012年末退役 2013年にエリントン飛行場で解体しジョンソン宇宙センターへ輸送、組み立てられた後2014年8月にスペースシャトルの実物大模型インディペンデンス号が搭載されました。2016年1月よりジョンソン宇宙センターの見学施設スペースセンター・ヒューストンで展示されています。

N911NA 2012年2月8日退役 使用可能な部品をSOFIA(747SP改造の天文台)に提供 2014年9月よりNASAからの貸し出しの形でカルフォルニア州パームデイル基地隣接のジョーデイビスヘリテージエアパークで保存されています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は「シャトル輸送機」について解説しました。

自力で飛行して移動できないスペースシャトルをおんぶして運ぶジャンボ。スペースシャトルの運用に欠かせない移動を担ったシャトル輸送機は、中古のジャンボジェットから改造されました。1号機は当初アメリカン航空塗装のまま活躍し、スペースシャトルの滑空試験の為に空中分離も実施しました。追加導入された2号機はかつて日本航空で活躍した機体で、日本国内線用に開発された747SR-100の初号機でした。日本国内線専用に開発された747SR-100が引退後、アメリカでスペースシャトルの輸送に活躍し宇宙開発を支えていたというのは感慨深いです。747SR-100についての記事も書いています。お読みいただけると嬉しく思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。ぜひ他の記事もお読みになってください。

参考文献

世界の珍飛行機図鑑 西村直紀 グリーンアロー出版社

747ジャンボ物語 誕生からダッシュ8まで栄光の半世紀 杉江弘 JTBパブリッシング

ジェット旅客機進化論 浜田一穂 イカロス出版

ライバル対決名旅客機列伝1 超大型四発機 ボーイング747VSエアバスA380 イカロス出版 

NASA Armstrong Fact Sheet: Shuttle Carrier Aircraft

Wikipedia英語版

The Story of NASA’s Boeing 747 Shuttle Carrier Aircraft Simple Flying

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エンデバー、博物館へラストフライト ナショナルジオグラフィック日本版サイト

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